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2006年7月 5日 (水)

短編小説//二千万円と銀行強盗と自殺志願者と私

■二千万円と銀行強盗と自殺志願者と私■

 

 

 もしも、目の前に拳銃を持った銀行強盗団が現れたら。
 もしも、銀行に恨みを抱いた人間が体にプラスチック爆弾を巻いて自殺しようとしていたら。

「動くな!動いたら撃つぞ!!」
「う、撃ってみろ!おお、お前らもろともなあ、お、俺は死んでやる!!」

 自分はどちらを応援するべきか。

「というか、早く二千万円を用意しろ!!」
「そ、そうだ!そそ、そこにある二千万円を、こ、このバッグに入れろ!!」
「おい!何でお前も二千万なんだよ!あれは俺らの金だ!」
「ち、違う!そそ、それは、お、俺の金だ!!」
「何だと!死にてえのか!」
「う、撃ってみろ!おお、お前らもろともなあ、お、俺は死ぬぞ!!」
 強盗団のリーダーと思われる男と、自殺願望の男は、先ほどから何度かそのような漫才を繰り返している。
 大した重さでないにしろ、いい加減に二千万を両手に持ったままの手が疲れてきた。
「あのー…」
「なんだ!」
「な、なんだよ!」
「ここには二千万しかありませんので、御二方とも半分にして、一千万ずつで手を打っては…」
「馬鹿を言うな!二千万じゃねえと意味がねえんだ!!」
「そ、そうだ!にに、二千万じゃないと、い、意味がないんだよ!!」
 いつも思うのだが。
 いや、銀行強盗に遭遇したのは初めてだが、ドラマや小説を見ていて、思うのだが。
 ここから持ち出したお金というのは、どこでどう使うのだろう?
 銀行の、特に金庫にあるお金というのは、ほとんどが新札である。さらに言えば、日銀から輸送され金庫に保管する際に、だいたいの通し番号は把握している。したがって、寂れた小売店か権力を持った企業で使わない限りは、使用された店舗から購入物の特定、更にうまく行けば防犯カメラに映って、犯人の特定に行きつくことが、たぶんできる。
 特定し難いのは、いくつもの預金口座に少額ずつ振り込まれること、現金を貨物として海外へ輸出してしまうことだろう。そうなれば捜査は難航し、その間にいくらでも身を隠すことができてしまう。
 しかし、いま目の前にいる銀行強盗と自殺志願者は性急にこの二千万を必要としている様子なので、持ち去っても直ぐに捕まるに違いない。
 地方の巡りを終えて、ようやく念願の都内支店長に就任した早々の銀行強盗。
 また地方に飛ばされるか、もしくは責任追及の末に辞任を迫られるか。
 いっそ退職金として、この二千万は自分が持ち去りたいくらいだ。
「そうか…ねじ工場の借金の返済の為に…町工場は大変だな」
「お、俺はまだ、せせ専務だから…そ、それよりもあんたも、たた、大変なんだね。む、娘の心臓手術代を、きょきょ、今日までに用意しなくちゃ、な、ならないなんて…」
 少し考え事をしていた間に、リーダーと志願者は漫才ではなく人生相談に移り変わっていた。
「おい支店長」
「なんでしょうか」
「このオッサンの働いている工場に、融資してやられねえのかよ?」
 リーダーは、硬くてひやりとした拳銃を私の眉間にあてた。
「工場のお名前は?」
「ひ、東岩森ねじ工場、で、です」
「東岩森様でしたか。毎度ご苦労様です。ご融資の件ですが、先日も東岩森社長にご説明したとおり、前回のご融資の返済がすまない限り、こちらから追加してご融資することはできません。申し訳ございません」
「し、し、死んでやるー!!」
「おい、いいのかよ!オッサンがここで死んでも!!」
 眉間にグリグリと拳銃を押し付けられたが、恐怖よりも憂鬱が先立った。
「ここで死なれるのは、ご遠慮お願いします。私には妻と小さな子供がいますし、ここの支店長として行員とお客様の安全を確保しなければいけませんので」
「じゃあ金を用意しろ!!」
「そ、そうだ!」
「申し訳ございませんが、先日本店へお金を輸送したばかりで、ここには私の手の中の二千万しかございません」
「じゃ、じゃあそれをいただく!」
「ふざけるな!それは俺の金だ!!」
 再び漫才を始めたリーダーと志願者に、私は嘆息をした。
 机の下にあるボタンから、警察へ強盗の連絡をしてもうじき5分。
 果たして警察は、どちらを凶悪な銀行強盗と認識するだろうか。
「ですから、半分ずつでは…」
「だめだ!」
「だ、だめだ!!」
「さようですか…」
 手の中の二千万は、私と共に行き場を無くしていた。

 

 

【end】

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