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2005年7月12日 (火)

物書きさんに20のお題 // 11.一酸化炭素

人物設定;
主人公>>男・22歳・フリーター
相手>>女・17歳・女子高生
その他>>女・45歳・主婦

 

 

■それもまた運命だろうって■

 

 

 日用雑貨を中心とした量販店でアルバイトをして早4年。週6日、1日あたり8時間+αの労働。時給は上がらず、残業代は出ない。毎年5月と7月と12月は必ず辞めたいと思う。
 今年も5月はどうにか乗り切ったけど、7月の売場異動でも、やっぱり辞めたくなった。家電からアウトドアのコーナーへって、新しいバイト先へ行ったのとほぼ同じだ。
 右の製品も左の製品も全くわからないのに、前任の社員は2日だけ俺に引継ぎ業務をして、さっさと辞めていった。他にこのコーナーを担当している人間は、厳密にはいない。アウトドアと園芸と合わせて、責任者である社員さんは1人だけいるけど、その人は園芸につきっきりだから。
 俺も辞めた社員さんと一緒にここを立ち去れば良かった、と今月は何度も思った。でも他に働き口がないから、毎日へこへこしながら働いてしまっている。
「ちょっと、お兄さん」
「はい~いらっしゃいませ」
「『ダッチ・オーブン』どこ?」
「ダッチ…はい?」
 ダッチといえばワイフとしか思いつかない俺に、尋ねてきた中年の女性は、黒くて大きくて煮る・焼く・揚げる・蒸す・燻すなど何でもできる魔法の鍋が『ダッチオーブン』だと教えてくれた。
 しかしその物が想像つかなかった俺は、とりあえずアウトドア専用の鍋が置いてあるコーナーまで、裸の魔女が黒い鍋を掻き混ぜているところを想像しながら案内した。
 こんな感じで、常にインドアを推奨してきた我が家で育った環境がここでは役に立たないんだと思いながら、製品名と製品が結びつかないアウトドア用品を非積極的に販売している。
 でも、つまらないことばかりではない。
 どこの売場でもそうなんだけど、月に1人くらいのペースで、変わった客と接する機会がある。
 その点でいえば、家電よりもこっちの方が、少しだけ面白かった。
「あのーすみませーん」
「はい~いらっしゃいませ」
 その日、俺に製品を訊いてきたお客さんは、長い黒髪がキレイな女子高生だった。
「『タンタン』ありますかー?」
「タンタン…はい?」
「この紙に書いてある物なんですけどー」
 タンポンの間違いじゃねえの?と思いながら女子高生の持っていた紙を見ると、『練炭』『七輪』『目張りテープ』『白いレターセット』と書いてあった。
「レンタン?」
「えー?タンタンじゃないんですか?タンレンのタンですよねー?」
「いや、鍛練の練だから、練炭は」
「あーそうなんですか。じゃあ練炭ありますか?」
 じゃあってなんだよ、と思いながらも、俺は練炭が今どこにあるのか考えた。
「たぶん、こっちです」
「たぶんって」
「数が多い少ないの、多いに、分けるって書いて、多分です」
「それくらいわかりますー」
「そうですか。失礼しました」
 運良くアウトドア一式コーナーの横に、七輪と練炭セットがあったので、それを女子高生に差し出した。
「あとー、メハリテープって何ですか?」
「メバリテープ。ここじゃないんで、家具か文具でうろついている人に訊いて下さい」
「メバリテープって、何に使うんですか?」
「何か空間を密閉したい時に、隙間を埋めるために使います。知らないで買うつもり?」
「えーだってこれ頼まれただけだからー」
「誰に?」
「知らない人だから、わかんない」
「それって、俺が知らないから?それとも俺も君も知らないから?」
「そうそう」
「そうそうって、どっち?」
「あなたもあたしも知らない人」
「あのさあ…」
 もし店内が禁煙でなければ、俺はここで溜め息をつきながら思いっきり煙草をふかしたい気分になった。
 仕方ないから、溜め息だけついておく。
「君、いくつ?」
「あなたは?」
「俺は22」
「あたし17」
「とりあえず、俺の今の歳まで生きてみたら?」
「いやよー面倒臭い」
「面倒臭いよ、確かに。高校卒業しても、大学へ行く金も頭も無くて、高卒を正規で雇ってくれる会社もなくて」
「ほらーやっぱり」
「でもさ、俺は10代の時より、20代の俺の方が好き」
「あなたが好きでもー私は好きになるとは思えない。今だって学校行くのヤだし、てか正直外に出るのもヤだし、知らない人と話すのも会うのもヤだしー」
「知らない人と一緒に死ぬんでしょ?」
「知らないけど、あたしと同じ側の人間だから」
「俺の側においでよ」
「なんで?」
「一酸化炭素中毒で死ぬには勿体無いよ、可愛いのに」
「それって、口説かれてんの、あたし?」
「うん、まあ」
「えー」
 うーんと首を傾げたり、長くてキレイな黒髪を指に巻きつけたりしながら、考えていた。
 それからチラリと俺を見上げて、腕の中の七輪と練炭に目を落とした。
「一酸化炭素中毒ってー苦しいの?」
「酸欠だからね。だんだんと頭痛がして吐き気がして、胸が痛くなって息苦しくなって、体が動かなくなって意識が保てなくなって、全身で酸素を求めながら苦しんで死ぬんだよ」
 あー煙草が吸いたいーと思いながら、俺はまた溜め息をついた。嫌なことや面倒臭いことがあると、すぐに煙草が吸いたくなる。ニコチン中毒で人が死なないのは、他の中毒で十分に人が死ねるからなんだろうな、と思いながら。
「あのー」
 どうするか決断したらしい女子高生が、手に持っていた七輪と練炭を売場に戻した。
「謝ったら、許してくれると思いますかー?」
「さあ。でも知らない人だから、あんまり深くは突っ込んでこないんじゃない?」
「もし死ななかったら、あたしと付き合ってくれますかー?」
「考えてもいいよ」
「そっちが口説いてるのに、ダメなんですかー?」
「自殺願望丸出しの彼女は、ずっと心配してなきゃいけないから面倒臭い」
「じゃあ、やめますー」
 だから、じゃあってなんだよ、と思いつつも、俺はなんとなく女子高生の頭を撫でた。

 

 その次の日から、俺は死ななかった女子高生と付き合い始めた。
 彼女が成人になったら結婚しよう、なんて大それた約束までして。
 IT関連の会社で新人研修を受けながら、まあそれもいいかなと、俺は思っている。

 

 

【end】

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