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2005年7月11日 (月)

物書きさんに20のお題 // 10.弱音

人物設定;
主人公>>ミカコ(29歳・商社OL)
相手>>ハジメ(23歳・サラリー)

 

 

■深層性格の一致■

 

 

「ここのところ、あまり上手くいってなくて…」
 私の作った夜ご飯を突きながら、彼は溜め息混じりにそう言った。
「何が?」
 私との関係が…じゃないよね、と内心ビビりながら、私は彼の言葉を促す。
「仕事とか、会社の人間関係とか、色々」
 落ち込んだ表情で、彼は味噌汁の具を箸で持ち上げ、ぼちゃっと落とす。
 良かった~私と関係なくて…と、私はホッと胸を撫で下ろした。
「もう辞めようかな…仕事」
「うん、いいんじゃない?」
 眉間に皺を寄せて味噌汁を飲む彼に、私はニコニコしながら同意した。
 彼が仕事を辞めても、私は私で稼いでいるから、家賃が滞納したり食べる物に困ったりはしないと思う。ていうか、私の方が彼より収入多いし。
「ハジメちゃんが嫌なら、辞めちゃいなよ。私、ちゃんとハジメちゃんを養ってあげるから」
 もしそのまま結婚したとしても、彼に家事をやってもらえれば、私はいくらでも稼いで来ようと思う。
 ていうか正直、家事って超苦手。この料理だって、かなり無理して作ってる。私だけだとカップ麺ばかり食べているのに、彼に女の子らしいところを見せるために、料理の本を暗記しただけだもの。
 掃除も洗濯も全然ダメ。たまにお母さんが来た時に、私のひとり暮らしをしている部屋の掃除も洗濯もまとめてしてもらう。
 でも自分のことは何も出来なくても、彼のためになら家事をして、自分って意外と尽くしタイプなんだな~なんて思っていた。
「ごちそうさま」
 ガシャンと、音をたてて味噌汁のお椀がテーブルに置かれた。
「何…どうしたの?」
 あからさまに不機嫌な顔になった彼は、テーブルの下に置いていた灰皿を持って、テレビの前に移動した。
「ハジメちゃん、ご飯まだ残ってるよ?」
「もういらない」
 ライターをカチッと鳴らして、彼は煙草に火を点ける。
「ねえ、私まだご飯食べている最中なんだけど」
「食べ終わったら、帰れ」
「…え?」
「しばらくここに来るな」
「何…どうして怒ってるの?」
 あまりの雲行きの怪しさに、私は箸を置いて、彼の隣に座った。
「ハジメちゃん、私なんか怒らせるようなこと言った?」
「別に」
「私、なんもしてないよね?」
「…」
「じゃあ、なんで怒ってるの?」
「うるさい」
 ピシャリと言い切られて、私は口を噤んだ。
 なんで彼が怒っているのか、私の何が彼を怒らせたのかが、全然わからない。
 しかも突然、もう来るなって…それって別れるとすごく似た言葉じゃないの。
 まだ付き合って1ヶ月で、こうやって半同棲になってから3日経つけど、それでもう終わりって、あまりにも早過ぎない?
「…ごめんなさい」
 腑に落ちないけど、とりあえず私が悪いみたいだから、早々に謝った。
 30歳を目前にした私が、彼と付き合ってようやく彼氏いない歴29年からようやく脱却できたのに。
 結婚も考えていたけど…ダメならせめて、来月の私の誕生日までは彼に彼氏でいてもらわなくては。地元の友達に、彼氏からのプレゼントの指輪を見せびらかしに行く予定なんだから。
「悪いって思って無いのに、謝るなよ」
 氷のように冷たい彼の言葉が、熱くなっていた私の思考を一気に冷ました。
「お前のそういうところ、直した方がいいよ」
 吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて、彼は私の目を見ずにそう言い放った。
 その生意気な態度に、私は一瞬で頭に血が上った。
 なに、それ。
 なんで知り合って1ヶ月ちょっとの若造に、そんなこと言われなきゃならないわけ?
 あんたこそよっぽど直さなくちゃならないところがたくさんあるじゃない。
 仕事がうまくいかないのも、人間関係がうまくいかないのも、うまくいかないとわかるとすぐに何でも放り出してしまう、あんた性格のせいじゃないの。
 人に何か言う前に、自分のことをちゃんとしてから言いなさいよ…と言いたい気持ちをぐっと飲み込んで、私はしょげた風にもう1度彼に謝った。
「…ごめんなさい」
「もういいよ」
 ほら放り出した…と、予想通りの彼の言動に、私はほくそ笑んだ。
「私、帰るね」
 全く、若い子の機嫌をとるのは大変だな~と思いながら、私は床に置いてあったバッグを拾って、玄関に向かった。
「ハジメちゃんの言う通り、もう来ないから…さよなら」
 ちょっと演技臭いかな、と思ったけど、私は震えた声でそう言って、何も出ていない目元を手で抑えてみた。
「ミカコッ!」
 突然、彼は私の名を呼んで立ち上がり、玄関先で私を止めるように抱きしめてきた。
「ごめん。八つ当たりだった。本当にごめん」
 すぐに謝るのはお互い様じゃない…と辟易しつつも、こう、情熱的に感情をぶつけられると、なんだか自分愛されている?って思えて、かなりいい気分だ。
「ううん…ハジメちゃんは悪くないよ。私が落ち込んでいるハジメちゃんを気遣ってあげられなかったのが悪いの」
 ああ、そういえば彼は落ち込んでいたんだっけ…と自分の口から出た言葉を頭の中でリフレインして、どうして彼が突然怒り出したのか、ようやくわかった。
 彼が弱音を吐いているのに、私は何もしなかったからだ。
 励ますとか、慰めるとか、抱きしめるとか。
 彼はきっとそういうことを私に要求していたのに、私は気付かずに、ほっといたからだ。
 彼も案外、甘えたで打算的なんだと思って、ウザイと思う反面、親近感が芽生えた。
「俺、本当にミカコのことが好きだから」
「私も、ハジメちゃんのこと大好きだよ」
 求められた彼のキスに答えながら、やっぱりこれは結婚だな~と、私たちの未来予想をした。

 

 

【end】

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