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2005年7月 3日 (日)

物書きさんに20のお題 // 05.リセット

人物設定;
主人公>>ミキト(男)
ミキトの恋人>>モト子(女)

 

 

■T-M0073■

 

 

 目を開けるてすぐに、俺は自分がモト子の部屋にいる認識した。
 10畳のワンルーム。テーブルの上には昨日2人で食べて飲んだコンビニの弁当とビール缶。ベッドの近くには、脱ぎ散らかした互いの服。
 閉めきられたカーテンの隙間から、強い陽射しが差し込んでいる。もう正午を過ぎていた。
 モト子はまだベッドの中で気持ち良さそうに寝ている。俺はベッドから起き上がって、床に落ちていた自分のトランクスを履いて立ち上がった。
 2人分の服を跨いで、冷蔵庫へむかう。アイエスのミネラルウォーターの瓶ボトルを、そのまま口につける。
 瓶をテーブルの上に置いて、俺はモト子が起きないように静かに部屋の掃除を始めた。
 空の弁当箱と缶は洗って分別。服は洗濯できる物は洗濯機に入れて回して、洗濯できない物はとりあえずハンガーにかけておく。
 モト子が起きたら、お腹が空いたというだろうが、あいにく冷蔵庫の中にはミネラルウォーターしか入っていない。何か買い出しに行く手もあるけど、モト子の財布を勝手に持ち出すことは出来ない。俺自身は、無一文だ。
 何もする事がなくなって、俺はテーブルの前であぐらをかき、また水を飲んだ。モト子は文芸に全く興味がないらしく、部屋には新聞も雑誌も何もない。服とバッグと化粧品と香水。それがこの部屋にある全てじゃないだろうか。
 テレビを見る気にもならず、俺は枕元に置かれた『モデル』の説明書に手を伸ばそうとした。
 その時、うーん…と覚醒したモト子の声を聞いて、俺は説明書を取ろうとした手を、モト子の頬に伸ばした。
「おはよう、モト子」
「んっ…誰かしら?」
 俺はベッドに上がり、寝ぼけ眼のモト子を抱きしめた。
「覚えていないの?昨日あんなに愛し合ったのに」
「ぷっ…あはは!」
 俺のセリフにモト子は噴き出して、笑いながら俺にぎゅっと抱きついてきた。
「嘘。覚えてるわ。本当にキザでカッコいいわねアナタ?」
「お褒めにいただき、光栄です」
「ねえミキト。私、お腹空いたわ」
「冷蔵庫には何もないよ。買い物へ行く?それとも外で食べる?」
「そうね、外で食べようかしら?」
 欠伸をしながら、モト子はベッドから起き上がった。そして俺に親愛なキスをした。

 

***

 

 モト子が服を着て、化粧が終わるとすぐに俺たちは外へ出た。
 夏の陽射しは高く、暑く、紫外線が強い。
 俺は半袖でも平気だけど、モト子は真っ白い麻の長袖パーカーに、UV加工のされたスラックス、日除け用の帽子にサングラスと、完全防備をしていた。
 俺は少しでもモト子は日陰の中を歩けるよう配慮しながら、腕を組んで通りを歩いた。

 モト子の部屋から10分くらい歩いた所に、オーガニック食品だけを扱うファーストフード店があり、俺たちはそこへ入った。昼時とあって人が多く、席の9割方は埋まっていた。
 モト子は胚芽入りサーモンベーグルに100%グレープフルーツジュース、俺はホットドッグとコーヒーを頼んで番号札を貰った。
 UV加工された窓の近くに設けられた喫煙席で、俺たち1つだけ空いていたは座ることができた。モト子はすぐに帽子やサングラスをはずして、脱いだパーカーを椅子にかけた。
「不思議なものよね。紫外線が危険だってわかっていても、人間は昔の癖で陽の光を浴びたがるのよ」
 スラックスのポケットから煙草の箱を取り出し、モト子は慣れた手付きで火を点けた。
「煙草もそう。肺癌率が高いと知っていても、一時の嗜好を味わう為だけに、止められない」
 窓に向かって煙を吐き出したモト子は、俺を見てふふっと笑った。
「人間って、馬鹿だと思わない?」
 俺はモト子に何か試されているとわかったけど、何もわからないという風に首をかしげて苦笑した。俺はキザで、カッコ良くて、バカなのだ。
「何も思わないなんて、アナタも馬鹿ね」
 満足そうにモト子が笑ったので、俺は内心ホッとした。
 これからの予定を話していると、ウェイター・タイプの『モデル』が、注文した物をトレイに乗せて持ってきた。
「やっぱり、デパートに買い物へ行くわよ。私ひとりだと食料品はいらないけど、ミキトは食べなきゃ死ぬし」
「そう。一週間くらいは水だけでも平気だけど、俺は食べなきゃ死んじゃうんだよ」
 俺は口の中でホットドッグを細かく噛み砕く。そしてコーヒーで喉の奥に流し込んだ。
「それはおいしい?」
「おいしいと思う」
「味覚はどう判断しているの?」
「モト子と変わらないよ。舌にある感覚器で、インプットされた『おいしい』と『おいしくない』と判断するだけ」
「頭のいい回答ね」
 ハッとして、俺はモト子の目を見た。少し怒っているようだ。
 俺は首を振って、素直に謝った。
「ごめん。つい…」
「きっと前のマスターの時の癖が、まだ残っているのね」
 モト子は手に持っていたベーグルを皿に置いて、ジュースの入ったグラスを持ち直した。
「怒らせたかな?」
「いいえ。これくらいなら…それより、ちょっと感慨深いと思ってね」
 ジュースを一口飲んで、モト子は俺に微笑んだ。
「完全にリセットされない『モデル』って、本当に人間のようだわ」
 本当に怒っていない様子のモト子に、俺ははにかむように微笑んでみせた。

 

 

【end】

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*『モデル』

 アイエス社から発売されている、ヒト型ロボットの愛称。
 最新型であるTタイプの『モデル』は、1000種類以上の調理レシピを内臓、ハウスダストセンサー付き、新生児から思春期の子供までの面倒を見る事が出来る、最先端の人工知能(A.I.)がついた家事専用型。
 タイプは大きく2種類で、「M(man)」と「W(woman)」がある。セクサイノイドとしても使用可。

 マスター(使用者)はアイエス社に対して、必ず氏名や住所の登録を行なわなければならない。また『モデル』を廃棄したい場合は、アイエス社に返還という形をとらなければならない。だが近年、アイエス社に無断でマスターが他者に『モデル』を譲渡する問題が起こっており、それに乗じた金銭トラブルや多発し、アイエス社は頭を抱えている。

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